【考察】斉藤光毅はなぜベルギー2部へ移籍するのか?

久々にコラムみたいなことを書いてみます。

横浜FCの期待の若手のFW斉藤光毅選手が、ベルギー2部のロンメルへの移籍が決まったことで、様々な意見が見られます。

私もTwitterでいろいろと見解を書いていますが、Twitterでは呟いたことが流れてしまって、過去に埋もれてしまうので、ブログで書いておくことにします。

理由1:環境に慣れるなら若いうちに

まず1つは「欧州の環境に馴染むこと」

サッカー選手を問わず、ビジネスの世界でも言えますが、まず海外で活躍するためには、やはり言語習得や生活環境に慣れるなど、海外の環境に馴染むことが求められます。

よく「Jリーグで活躍してから海外へ」という意見は見られますが、Jリーグで活躍しても活躍しなくても、結局海外に出るからには、新しい環境に適応していかないといけません。国内リーグでの活躍の有無は問わず、実力が備わっている選手であれば、その海外での環境に馴染んでいけば、自然と結果が出てくるでしょう。逆に環境に適応できなければ、日本で実績があっても、何も残せないまま帰国する…ということも考えられます。

ベルギーはオランダ語、フランス語が公用語ですが、様々な国の選手がこの国に集まっているので、多くのチームでは英語が使用されています。上手く会話ができなくても活躍できる選手はいますが、戦術が複雑化している現代サッカーでは、やはり早いうちからの英語の習得をした方が良いでしょう。

理由2:多国籍リーグである

欧州各国のリーグとJリーグに関しては、よく「レベル」での比較をする人がTwitterなどでよく見られます。

しかし、Jリーグと欧州のクラブでは決定的な違いがあります。

それは、Jリーグはあくまでも「日本人が中心」である一方で、ベルギーなどの欧州のリーグでは「多国籍である」という明確な違いがあります。

外国人枠に制限がある日本では、外国人選手の獲得も厳選しなければいけませんが、ベルギーのように国内で育成された選手を5人をベンチ入りさせれば、外国人に制限がないレギュレーションになると、世界各国から多数の選手が集まってくる環境になります。

その特徴を考慮すると、ベルギーのようなリーグは、総合的にJリーグの選手と比べて、平均身長で5cm以上は上回るほどの体格に恵まれた選手が多く、アフリカからスピードに恵まれた選手も多数集まってくる傾向にあります。

4大リーグ 世界中の選手が集まっている
ベルギー他 世界中の選手が集まっている
Jリーグ チームの半数以上は自国選手の日本人中心のリーグ

Jリーグとベルギーリーグのレベルを語る人は多いですが、レベルを語る以前に「日本人が中心であるJリーグ」と、「世界中の選手が集まる欧州のリーグ」では、全く別物だと考えるべきでしょう。

そして、今の4大リーグは、サッカースタイルや所属する選手の特徴と類似する、フランス、オランダ、ベルギー、ポルトガルなどのリーグから、積極的に選手を獲得しています。現状では「欧州とは異なり日本人が中心」であるJリーグは、4大リーグのクラブからしたら、即戦力としては消極的な傾向があります。

また、近年では外国人投資家によるベルギー進出の影響により、外国人の指導者が多く進出してくる傾向があります。今年4月にアメリカの投資家グループに買収されたオーステンデは、レッドブルグループから指導者や選手が複数名派遣されており、プレー強度を重視したアグレッシブなサッカーを展開しており、サッカーの戦術面でも大きな影響を与えています。

トップレベルとベルギーリーグのサッカーでは、レベルに確かな差はありますが、そこで行われているサッカーや個々の選手のバラエティは、Jリーグに比べては大きな差があるわけではありません。

また、Jリーグとベルギーでは、選手自身のプレーも大きく異なります。チームの戦術によって若干の差はありますが、ポジションの一つをとっても、サイドの選手はJリーグではボールサイドに寄るシーンは見られますが、ベルギーではサイドライン近くから離れることは少ないです。中長距離のパスを蹴ることを前提とし、ピッチをワイドに使うのが基本とするチームが多いため、決められたポジションから離れることを好まれません。

かつてプレーした選手のインタビューでも取り上げられていますが、「長いパスを使う」「常にゴールを意識してプレーする」という観点では、Jリーグとは違いは、ベルギーには存在するものです。選手達はそのスタイルに合わせていかなければ、ベルギーでも出場機会は十分に得られないでしょう。

「欧州の市場に行くことが大切」と言われる要因は、スカウト目線では「似たような環境でプレー」する必要がある…と考えられるでしょう。

理由3:出場機会が期待できる

オランダやポルトガル、オーストリアなどの国へ移籍する選手に対しては、よく「4大リーグでないと」という声は挙がっています。

しかし、今の4大リーグと呼ばれる、イングランド、スペイン、イタリア、ドイツなどのリーグのクラブは、現在では直接Jリーグに所属する選手を獲得するのは消極的なのが現状です。

多くの日本人のサッカーファンが「4大リーグでないと」と言ったところで、根本的にその国のクラブからオファーがなければ、移籍は実現しません。

また、2010年頃のように、多くの日本人選手がブンデスリーガへ移籍していたのは、当時のドイツのクラブが資金力がさほど恵まれておらず、移籍金なしで獲得できるJリーグを視野に入れていた背景がありました。しかし、現在ではドイツのクラブは資金力も恵まれており、フランス・リーグアンの主力級の選手や、大国の若手選手を大金かけて獲得する流れになっているため、以前ほど日本を注目していないのが現状です。

今、日本から直接ドイツなどの4大リーグへ移籍したところで、フランスやオランダ、ベルギーなどの国から500〜1000万ユーロ(約7.5〜13億円)の大金で獲得した選手とポジションを争うことになって、ポジションを獲得することができず、出場機会がなく、そのまま帰国の途につく…というのは、想像できるでしょう。

ここ数年はドイツ勢の代わりに、ベルギー、オランダ、ポルトガル、オーストリアなどのクラブが、Jリーグから選手を獲得する流れになってきていますが、それは日本人選手にとっては、欧州の環境に馴染みつつ、同時に出場機会も十分に得られる環境であるからです。

「ミキッチのJリーグ主義」はもう古い

ドイツやスペインなどの2部リーグや、ベルギー、オーストリアなどのクラブへ、Jリーグの選手が移籍するたびに、過去のNumberの記事「安易な海外移籍決断に異を唱える、広島・ミキッチのJリーグ主義」を引用する方がたまにいられます。

安易な海外移籍決断に異を唱える、広島・ミキッチのJリーグ主義。https://number.bunshun.jp/articles/-/216508

この記事が出てから8年も経っている現在では、Jリーグにしても、欧州のサッカーにしても大きく変わっているものですが、サッカーファンのマインドはなかなか変えられないものかと感じることはあります。

ただ、ベルギーを見ている側からすれば、この10年で多くのクラブが外国人投資家に買収されており、その影響から世界中からベルギーでプレーする選手が増えてきているのが現状です。ドイツほどではないですが、ベルギーのクラブも年々資金力が上がっており、今ではウクライナ、チェコ、コロンビア、ナイジェリアなど、多くの投資で有望な若手選手を獲得している現状で、中には代表ですでに活躍している選手もいます。

この記事にあるように「ヨーロッパのクラブならば、どこでもJリーグより上かのように語られる空気がある」というのは僕も否定的ですが、それ以上に「8年も経てば価値観も大きく変わってて当然」と思ってしまいます。

リーグの格より選手目線で

斉藤光毅選手がベルギー2部のクラブへ移籍することを、批判的に見る人は多いかもしれません。

しかし、3シーズン前はヴォルフスブルクの控えに過ぎなかった、ヴィクター・オシメーンが、シャルルロワ、リール、そしてクラブ史上最高額でナポリへと、1年ごとでステップアップするところを見ると、選手がどの環境でいても、目に見える結果を残していれば、すぐに上位のクラブへステップアップできるのが、今の欧州のサッカーの流れです。

オシメーンもシャルルロワへ移籍せずに、ヴォルフスブルクで燻ったままだったら、おそらく今の姿はないでしょう。選手は試合に出場して、初めて価値を示すことができます。

斉藤光毅選手も半年で、ベルギー2部を圧倒するほど、あっと驚くような成績を残すようであれば、オシメーンのように一気にビッグクラブまで辿り着けることも考えられるでしょう。

そう考えると、よく「4大リーグでないと」という声は、その人自身が「4大リーグでプレーする選手を見たい」という希望であって、選手の身の丈はあまり考慮していないものかと、僕は感じるものです。

いくら日本で実績を挙げたところで、欧州へ移籍する以上は、その環境に慣れていかなければなりません。また有名なクラブになれば、必ずポジションを争う強力なライバルが存在します。その中で環境に慣れていない日本人がプレーすることは、欧州で長くプレーしてきた選手に比べて、大きなハンデを背負っているも同然です。その中でポジションを確保して、試合で結果を出していくのは、選手に非常に厳しいものです。

選手の目線で考えれば、環境に慣れながらも十分な出場機会を得られることは大切なことです。斉藤光毅選手のロンメルでの活躍を期待しつつ、下部リーグからでも欧州で挑戦していく選手に対して、もっと理解が広まってほしいと思い、今回のコラムを締めたいと思います。

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